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「ゲームの世界でぐらい、ヒーローでありたいんだ」と彼は言った

これは現在うつで休職中の私が当時を振り返り、モノの見方が変わったという話です。

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10年ぐらい前だろうか、あるオンラインゲームの仮想世界に「彼」と私は居た。

その仮想世界では、定期的に大規模なチーム対抗戦が開かれ、勝者は大きな利益を享受できるシステムだった。

彼は数百人規模の連合のリーダーで悪名高き独裁者としても、頼れるリーダーとしても知られており、そして強かった。一方で私も、同様に大規模な連合で参謀のような立場にいて、それなりの強さを持っていた。私たちはその仮想世界のTOP3に入る連合として、常に対峙していた。

しかし、当時未成年だった私にとって、「大規模戦を自分が支えている」という誇りよりも、「なぜみんなのために毎回、作戦を考え、作戦書をつくり、各幹部に連絡し、根回しをするといった行為を自分がしなければならないのか」という嫌悪の思いが強くなり、その他の出来事もあってその立場を降りた。

一方、彼はリーダーであり続け、貪欲に強さを求め続けていた。

数年が経過し、彼と私は初めて直接話す機会を得た。紆余曲折を経て、私が彼の連合に参入したのだ。

中から見る彼の姿は、伝え聞く「悪名高き独裁者」とは違ったものだった。たしかに口が悪く、ぶっきらぼうだったが、不思議なカリスマ性があった。そして古くからの彼の友人たちがうまく彼をサポートすることで、連合が成り立っており、良い組織だと思った。

彼は滅多に愚痴を吐かなかったが、不思議と自分には個人的に話しかけてくることが何度かあった。元々私が別の大規模連合の上層におり、かつ昔からの仲間ではなかったからかもしれない。

あるとき、珍しく彼が愚痴っぽかった。その話の流れで、私はふと以前から思っていた疑問をぶつけてみた。

「なんでそこまでがんばるんだ?」

彼は言った。

「ゲームの世界でぐらい、ヒーローでいたいんだよ…」

聞けば、現実世界の彼はひどいコンプレックスを抱えているようだった。詳細は書かないが、いろいろと聞いた結果、当時の私が抱いた感情は、「哀れみ」に近いものだった。

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ここから今に戻ります。現在私はうつで休職中であり、ある程度症状は良くなってきたものの、毎日ある時間になると、「この世から消えてしまいたい」に近い不安定な感情と戦っています。

そんなとき、誰かと話をしたり、声をかけてもらえると、随分と気が楽になります。つまり承認欲求によって不安から逃れようとしているのだと思います。

正常な状態であれば、「承認欲求に強く依存するスタイルは良いものではない」と考え、かつ「自分はありのままで価値のある人間だ」と考え続けられたでしょう。

しかし、うつで不安定になっている状態では、「そのままでいいんだよ。はまさんの価値は全く減ってないんだよ。」と言われても、その日は気分良く過ごせても、また明日から同じように不安と戦う時間が来て、もがき苦しんでいるのです。

そんな状態の今、改めて彼の言葉をふと思い出したんです。

「ゲームの世界でぐらい、ヒーローでいたいんだよ…」

今なら彼の気持ちがよくわかるように思います。きっと彼も当時、現実世界の不安に抗った結果、ゲームの世界で承認欲求を得ることに熱中していったのでしょう。

そのことの是非については賛否両論でしょう。しかし、10年後の今になって、私は当時よりも彼を親しく思います。

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